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双海の夕日

 10月16日、畑から帰る時間が丁度、日没の時間になった。このごろあまり良い夕日を見ていないと思っていたが、この日は晴天に恵まれていたので、久々に夕日を見る事にした。場所は双海町シーサイド公園。
 夕日も綺麗だが、空気が綺麗なことも有って、この時珍しく九州の国東半島が見えた。
夕日に向かって4、5枚写真をとったころ、私の左後ろに4人連れが来て、夕日を見ながら話しだした。はじめは気にとめず私は写真を撮りつづけたが、この4人が余りにも近くに来ていたので、私は「今日は九州も見えますよ」といった。すると、男が「九州はどこだろうね?、国東半島かな?」と応えた。私は「そう、国東半島です」と答えた。すると一人の女性が「あれは豊後水道かしら?」と、問う。男は「そうだ」と答えた。私は「豊後水道は左の方です」と言った。少し間を置いて男は「姫島はどれだろう?」と姫島を見つけようとしていた。私は「姫島は太陽の右側にあります」といった。
男の会話は実に穏やかで落ち着いており、特徴のあるテンポをもっていた。この会話を私は相手の顔を見ずにしていたが、4人で話しているその声を聞くうち、頭の中に、いつかテレビで見たことのある一人の男の顔が浮かんできた。確かめようと、振り返ってみると頬と顎に髭を生やした穏やかな紳士がいた。映画監督の大林宣彦氏だと確信したが、私は夕日を撮りつづけた。夕日が光を閉じた瞬間、女性が「速いのね」といい、彼は「雄大だね」と応えた。私は、太陽を失った夕焼け空を取ろうとしたがデジカメのバッテリ−も力を失っていた。私は彼を目で追った。ゆっくりと車に向かっていた。彼は大きな黒塗りの車に御伴ふたりと、夫人と思しき女性と共に乗り込み、公園を離れていった。
 記憶の中で夕日が立ち止まった。