夏つばき・シャラ・沙羅の表情

ゴールデンウィークの頃、青々とした葉が美しく、小さな蕾が目立つようになる。
梅雨にぬれた花。
午前8時頃。
曇り空の下での花。
早朝、7時頃、開きかけた花と、翌日あたりに咲こうとする蕾。
8時頃の花。
薄日がさしているときの花。
正午過ぎ。
こぼれ種から発芽した苗を丹念に育てて、玄関前で蕾をつけたシャラ。
こぼれ種から発芽した苗を丹念に育てて、玄関前で花を咲かせたシャラ。

私は、夏つばきの花が好きだ。
夏つばきはシャラ(沙羅)とも呼ばれる。どちらも響きがいい。
夏つばきは落葉樹で、気温の高い地域には向かないようである。
私の住んでいる松山市あたりは少し暖かすぎる気がするが、高知の「モネの庭」でも美しく咲いていたから、四国ならどこでも大丈夫かもしれない。
石鎚あたりでは、シャラの仲間のヒメシャラの大木が沢山見られる。
私が夏つばきに惹かれるようになったのは、20年ほど前にテレビの旅番組で、「海石榴」という旅館に夏つばきが沢山植えられているという話を聞いてからである。
どのように植えられているのか、行ってみたわけではないからよくはわからない。
ただ、この「夏つばき」という言葉の響きが耳に残り、「夏つばき」とはどんな花だろう?、という疑問が頭の中に残ったのである。
それで、愛媛に帰って松山市に家を買ったとき、庭に夏つばきを一本植えてもらったのだ。
それまで、私の頭の中にあった「つばき」のイメージは真っ赤な藪つばきやボテボテとした栽培種のつばきであった。
私は藪つばきが好きで品種改良された栽培種はあまり好きではない。
普通のつばきは、常緑樹で初冬から4月頃まで花を咲かせ、色は赤やピンク、白の組み合わせになっているものが多い。そして花は数日咲いているがポトリと落ちるのが特徴である。
それに対して夏つばきは落葉樹で花の時期は大体6月、色は白である。花は早朝から咲きはじめ、日が暮れる頃にはしぼんで落ちる。一つ一つの花の開花期間は半日なのである。
そして、この半日の間に花は様々な表情を見せるのである。蕾が残っている間、連日花を開かせては散っていく。
真っ白な、時に透き通るような白い花が朝開き、夕方には散っていく、そのはかなさに人は無常を感じ取る。
開いた花が全て美しいわけではない。一つ一つの花はみな個性的である。短い命の中でその最も美しい瞬間に相まみえることができる機会はそう多くはない。その瞬間を期待して私は一つ一つの花を見つめる。

松山市でも植木苗として、シャラの苗や、またかなり大きくなったシャラがよく売られている。
また、植樹されたものも何度か見ている。幹の直径が5センチから10センチ程度の大きなシャラが植えられ、2,3年で枯れてしまったシャラを何度か見た。
植樹されたばかりの立派な植木ほどよく枯れている。
造園屋さんが植えたものでもよく枯れている。
私は、平成元年に買った家の庭と、平成9年に買い換えた家の庭とに、2回シャラを植えてもらったがどちらも活着し花を咲かせている。
私のシャラはなぜ枯れなかったのか。
造園屋さんが植えた直後に思いっきり、切るのである。
剪定などという生易しいものではなく、幹を半分くらいに切るのである。
そして、新しい芽が伸びてくるのを待つのである。
しかし、花や葉の美しさとともに樹形の美しさもまた大きな魅力となっているシャラの幹を半分に切ることはたいていの人が躊躇するし、思いつきもしないだろう。
しかし、樹形の美しさにとらわれ、切らずにおくと、やがて枝の先から弱り始め、その枝を切り、残った部分がさらに枯れて、さらに切り取るということを繰り返し、終に全体が枯れてしまうことになることが多いのである。おそらく一本5万円はしただろうと思われるような立派な植木が枯れてしまった例を私は2箇所で見ている。
なぜ、幹を半分ほども切るのかというと、植木は出荷するために植木畑から掘り起こされるときに根の大部分が切られてしまい、地上部分と地下部分のバランスが崩れているからである。
このバランスを補正するためには地上部分を思いっきり切る必要があるのである。
庭の美しさは、造ったときの美しさが持続するのではない。
庭は絶えず変化していくのであり、一瞬たりとも同じ形をとどめるものではない。
だからこそ庭は人の心をひきつけることができるのである。
買って来た植木の美しさにとらわれ、その美しさを守ることだけを考えていると、その樹自体を失うことになりかねないのである。
先々の美しさを思いながら、庭木の世話をすればやがて本当に美しい瞬間に遭遇することも可能になるのである。

私の庭の夏つばき

「モネの庭」で撮った夏つばき
     高知県安芸郡北川村