茅茫庵 「 自適農の世界 」
 
はじめに
私の野菜たち
なぜ野菜の栽培なのか
キュウリ
トマト
「自適農」とは何か
ナス
農薬使用から無農薬への道のり
苗つくり
「旬」について
 
 
 
The world of the quiet farming
Introduction
My vegetables
Reason why I grow vegetable
 
 
 
福岡正信の自然農法と茅茫庵
  


「旬」について



 

                

食べ物について、よく「旬」ということが言われる。ある食材について、収穫が最も多い時期を迎え、したがって大量に市場に出回り、そして安く手に入り、しかも美味しくて、栄養価が高くなるようないいことずくめの時期のことを、この食材の「旬」というわけである。

しかし、この「旬」という言葉、今日ではすっかりあいまいな言葉になっている。ハウスのような施設を使わないで、自然状態に近い環境で栽培される作物と、施設の中で栽培される作物では、同じ作物でも収穫期がすっかり違ってきているからである。露地では夏にしかできないスイカをハウスの中で冬に作ったりするからである。イチゴは愛媛県では露地で栽培すると5月頃に実が熟すが、ハウス栽培ではクリスマスのころに最盛期になるように栽培されている。旬がずれるのは、ハウスなどの施設を使うからだけでなく、南北に長い日本列島の各地で、同じ品種の作物を気候に合わせながら栽培し、日本全国を市場として各地に出荷されることによっても引き起こされる。同じジャガイモでも鹿児島のジャガイモと北海道のジャガイモとでは収穫期が違う。収穫期は南から北へと向かっていくのである。だから、「新ジャガ」が年中出回るわけである。旬があいまいになってきたのは、市場が地域に限らず全国に広がったこと、外国からの入荷が日常化してきたことにもよるのである。

また、冷凍技術の発達によって、大量に収穫された最盛期の作物を冷凍し、時期はずれに市場に出荷されながら、冷凍されていたため、季節はずれの「生鮮野菜」よりも美味しくて、栄養価が高いといった作物もあるという具合である。

野菜を栽培していて、はっきりと分かるのは、野菜の「旬」というのはほんの少しの期間しかないということである。キュウリやナスは6月から9月ないしは10月くらいまで同じキュウリのツルやナスの「木」から収穫しつづけることができるが、それにしても本当に美味しいものが収穫できるのは1ヶ月程度である。春キャベツなどは春に気温が上がり生長に勢いがつくと一斉に収穫期を迎え、せいぜい2週間以内に収穫しないと急に虫が着き始めたり、裂果したりして、不味いものになってしまう。ソラマメなどは、種を植え付ける時期にずれがあっても、同じ畑だと殆ど同じ時期にどの豆も収穫期を迎えてしまう。松山平野では、田んぼの冬作として麦がたくさん栽培されているが、5月中旬の晴れた日、一斉に麦刈りが行われる。どの麦もせいぜい一週間のうちには刈り取られてしまう。麦まきの時期は数日ずれても、収穫日はほとんど同じ日にかさなるといってよいのである。

私がレタスを栽培すると、5月初めに急に結球し始め、あっという間に結球したかと思うと雨に打たれて葉が傷みはじめる。ほんとに美味しく食べられる時期はせいぜい10日間である。この間のレタスは実に美味いのだが。

「旬」の意味は、自分で作物を栽培してみないと本当には理解できない。「旬」は「一瞬」である。本当に美味いものが食べられるのは、年にほんの数日なのである。この時期を外すと本当に美味いものは食べられない。いくら、新鮮に見えてみずみずしく見えてもこの「一瞬」をのがした作物は美味くはないのである。

作物が収穫期を迎え、もっとも美味しい時期を迎えるのは、どの地域にも共通の日にやってくるわけではない。同じ愛媛県内にあっても、平野部と山間部ではずいぶんと違うし、北部と南部でも違う。平地と傾斜地でも違うし、同じ傾斜地でも北向きの傾斜地と南向きの傾斜地ではずいぶんと違ってくる。日照時間や気温、地温が作物の生育に大きな影響を与えるので、地理的条件が収穫期をずらせてしまうのである。地理的条件がずらせるのは収穫期だけではなく、植付けの時期もずらせるのは言うまでもない。いつ、種まきをし、いつ定植するかは、作柄に決定的な影響を与える重要事項の一つである。そして、このことはそれぞれの畑が持っている個性であって、それぞれの畑のこの個性を読み取ることはよい収穫を得るための決定的条件の一つである。

たとえば、ソラマメを10月の真中の日曜日に種まきするとしよう。私の畑ではこの時期が最適である。そこで、何らかの理由で種が芽を出さず、2週遅れで、つまり11月を迎える時期に種を再度蒔いたとしよう。すると、10月中旬に蒔いた種は元気よく生長し、たくさん脇芽を出してくる。2週間遅れのソラマメは、生長が遅く、脇芽も少なく、したがって実の着き具合も劣ってしまう。しかし、どちらも6月の頭になると収穫期を迎えるのである。

それぞれの畑には、その畑が持っている固有の性格があり、その性格そのものは変えようがない。北部か、南部か。平野部か、山間部か。平地か、傾斜地か。北向きか、南向きか。東向きか、西向きか。水分を持っているか、かわいているか。日照時間はどのようであるか。雨や風はどのような時にやってくるか。こうしたことが、作物の生育に大きな影響を与えるのである。だから、「旬」はそれぞれの畑がもつ個性の結果であり、「旬」と言っても一掴みにするわけにはいかないわけである。