茅茫庵 「 自適農の世界 」
 
はじめに
私の野菜たち
なぜ野菜の栽培なのか
キュウリ
トマト
「自適農」とは何か
ナス
農薬使用から無農薬への道のり
苗つくり
「旬」について
 
 
 
The world of the quiet farming
Introduction
My vegetables
Reason why I grow vegetable
 
 
 
福岡正信の自然農法と茅茫庵
  


ナス・なす・茄子






 ナスは、私の大好きな野菜だ。夏になるとナス料理を毎日、食卓に登場させる。

ナスの食べ方は、色々あるが、焼ナスと味噌田楽が特に好きだ。天婦羅も美味いし、シギ焼にして、かつおの削り節をふりかけ、しょうゆをかけて食べるのも美味い。味噌汁や塩もみも良い。ナスはそれ自体では、あまりカロリーの高い食材ではないが、油とよく合うのでカロリーの高い油料理になりがちである。その点、焼ナスは油を使わないから低カロリーのまま食べられる。

ナスは、品種によって食べ方を変えるのが良い。私が、今まで栽培したことのあるナスは、松山長ナス、早生の中長ナス、大型の丸ナス、千両2号、水ナスの5種類である。松山長ナスは私の畑では出来が良くないし、長くて焼ナスには不都合だし、かみさんの好みにも合わないので、近頃では作る気にならない。焼ナスにして美味しいのは、早生の中長ナスや千両2号である。焼いても実がたっぷりと残り、とろりとして甘味があって、大変美味しい。田楽に良いのは丸ナスと水ナスである。大型の丸ナスは直径が123センチにもなる。丸ナスの場合は火が通りやすい厚さに切って、油で焼いて田楽味噌をつけて食べる。水ナスの場合は、半分に切って水あらいし、電子レンジで暖めるだけで熱が十分に入る。熱が入ったところでフライパンに油少々をひき、表面が微かに焦げる程度に焼いてから、かつおの削り節ともろみ味噌をかけて食べる。煮て食べるのは千両2号がよい。皮を取り、5センチくらいに切って、丸のまま茹でて火を通し、あまり柔らかくならないうちに取り出して、油少々をひいた鍋にいれ、だしの素とか、いりこなどをいれて、砂糖、しょうゆを加えて、炒め煮にしながら仕上げる。

 低カロリーのまま食べるには、焼ナスが最高だが、水ナスの田楽もカロリーも抑えることができて実に美味い。何と言っても料理が簡単に出来る。水ナスは最高だ。

    

 (ナス003 早生中長ナス)          (ナス004 千両2号)  
  

     

(ナス005 丸ナス)              (ナス006 水ナス)

 

 子供のころ、ナスができると、母がよく焼ナスを作って食べさせてくれた。子供の頃はご飯をかまどで炊いていたので、かまどの残り火でナスを焼いていた。火が十分にはいってくるとナスは「シューッ」という音をたてて蒸気を吐き出し、あたりは焼なすの香りで充満した。焼きたての熱くてヤケドしそうなナスに冷たい水をかけながら皮をはぎ、4,5センチ間隔に切って皿に盛り、かつおの削り節としょうゆをかけて食べた。ご飯を美味しく食べることが出来た。

焼ナスは、子供の頃から大好きだったが、東京の生活の中では食べる機会がほとんど無かった。ガスレンジで焼ナスを上手く作る方法が思い浮かばなかったからである。だから、ナス料理はどうしてもフライパンで油をたっぷり使って焼く料理になりがちであった。もちろん、ナスと油の相性は大変よいから、不味いわけはない。しかし、スポンジのようなナスにたっぷり油を吸わせて作った料理はカロリーの取りすぎになってしまう。焼きナスにして食べたいという思いがつのっていたものである。

 私が、野菜つくりを始めるようになって、ナスを初めて栽培した場所は庭だった。

             (ナス007)

 平成元年の春、DIYからナスの苗を3本買ってきて植え付けたものだ。庭の土は、黄色くて砂のような真砂土と言われる土で、そのままではとても作物が出来る土ではない。毎日、水をかけたり、米のとぎ汁をやり、根回りには枯草を敷いて、有機配合肥料をやったりしながら、やっと数本の実を収穫することが出来た。この時農薬を使ったという記憶は無いが、虫の害にも遇わず、なんとかナスになっている。しかし、実は硬くて美味しくなかった。庭先でのナス栽培はこの1回で終わった。

 2回目からは、ミカンつくりをやめた畑で栽培を試み、現在も同じところで作っている。

平成9年までのナス栽培は、満足な結果にはならなかった。始めは、生長がわるくて、どうしたものかと思案し、思いつきで草木灰を撒いたら、少しよくなった。次に困ったのは、ニジュウヤホシテントウによる害である。葉も実もガリガリに食い尽くされ、全く収穫に至らない年もあった。近くで作っていたジャガイモのところで発生したニジュウヤホシテントウがジャガイモの収穫の後、ナスに移って来たことに気づいて、ジャガイモの作付けを減らした。もう一つの虫害はチャノホコリダニである。チャノホコリダニは茶の木の葉について越冬するといわれているが、私の畑の周りには茶の木が生えている。昔から自家消費のために植えられていたもので、今でも母が摘んで使っている。だから取り除くわけにはいかない。

 

           (ナス008)

 チャノホコリダニが着くと、この写真のように伸びようとする葉や茎がカサカサになって生長が完全にとまってしまう。ニジュウヤホシテントウの害は、今ではほとんど気に病む必要が無い程度に減少したが、チャノホコリダニは今でも時々、害を及ぼす。このダニは同じ畑で作っているピーマンにも同じような害を引き起こしている。しかし、ナスにしても、ピーマンにしても、食べるには十分な収穫が確保でき、今ではそれほど大きな被害にならなくなっているので、農薬の使用は必要がないし、使用していない。

 ナスの栽培を始めてしばらくは、ナスの生長がよくない原因が分からなくて、試みに草木灰を撒いたら、勢いがついてきた。草木灰と石灰は同じようなものだろうと思って、それ以後はしばらく石灰や苦土石灰を使った。鶏糞や牛糞の堆肥なども使ってみた。多少、よくなってきたという実感はあったが、どうも満足できないという気持ちが続いた。DIYにいくと生き生きと生長している鉢植えのナスが売られていたりして、「あれは一体どのような肥料をやっているのだろう」などと思いながら、土や肥料に思いをめぐらしていた。

 ナス栽培に大きな転機が生まれたのは、野菜つくり10年目、平成10年であった。雑木林の土と腐葉土を採取して、大きな植木鉢の中でナスの植木鉢栽培を試みてからのことである。植木鉢の中に、雑木林で採取した土と腐葉土のほか、使い古した鹿沼土、赤玉土、有機配合肥料を混ぜていれ、ここにナスの苗を植え、ゴミ袋でマルチしてみたのである。

すると、ナスの苗は猛烈な勢いで生長を始め、虫が着くことなく、実をたくさん着けたのである。(ナス009)

 腐葉土が植物に良いことは、小学校のころ先生から聞いた記憶が頭の片隅にあったが、雑木林の土や、腐葉土がこれほど良いものだと実感したのはこの時が初めてであった。このナスの植木鉢栽培から学んだのは、雑木林の土や腐葉土だけではない。ビニールマルチの効果である。ナスはもともと、原産地がインドだと言われており、高温多湿を好むということである。根元をビニールで覆うことによって土の温度をかなり引き上げることができる。

 

 

            (ナス009)

このナスの植木鉢栽培は、私のナス栽培に飛躍をもたらした。私は同時に畑の中でナスを定植する仕方も変えた。苗を定植するための直径50センチ、深さ30センチほどの穴を掘り、腐葉土の代わりとして、雨ざらし日ざらしにして作った草だけの堆肥と市販の有機配合肥料を入れ、土とよく混ぜて、苗を植えた。そして根元には黒ビニールのマルチをしたのである。ナスは非常によく出来るようになった。時々、ニジュウヤホシテントウが葉についたりするので、農薬を散布した。このころまでナスには農薬を使っていたのである。ナスは先にも書いたようにニジュウヤホシテントウの激しい被害にあっていたから農薬を使用していたのである。だから、この平成10年のナスの収穫は大変良かった。しかし、農薬を直にナスの実に散布することはしたくなかったので、実が着くとビニールの袋をかけてみた。散布するときだけ袋をかけておき、散布が終わればはずすようにすればよいのだが、面倒なのでかけたままにしておいた。するとビニールの袋がナスの実にペタッとはりついてナスの実は成長しなくなるのであった。これでは具合が悪いので、ビニールの袋かけはやめて、大きくなった実を全部取って、花がついている状態にして農薬を散布し、実が着いてからは散布しないことにした。この年にはまだ、虫害の恐怖があったので、農薬を使いながら農薬と格闘していたのである。

ところが、平成10年の秋、それまで農薬を使っていた大根の栽培に取り組んだとき、農薬なしで大根栽培に成功した。この時の状況は「大根」の項で詳述するが、この経験を経て、平成11年からはナスの栽培でも無農薬で通すようになった。不思議なことであるが、それ以後ずっと農薬を使わずともニジュウヤホシテントウの害は顕在化しなくなったのである。たまに見つけると手でつぶす程度で十分になったのである。

平成10年のナス栽培では、黒ビニールのマルチをしていたのだが、その後ビニールマルチでなく、刈り取った草で根を覆って栽培するようにしてみた。藁でマルチするという例もよくあるが、私には藁は手に入れにくい。そこで刈り取った草を利用してみたわけである。私はこの方法に大きな効果を期待していたのであるが、結果はあまりよく無かった。草でマルチすると、草はやがて分解して野菜の養分にもなるのではあるが、ナス栽培においては、マルチの必要性は、地温を引き上げることにある。草を根元にしいてマルチしても、地温はあまり上がらず、逆に土を冷えさせるようにも思えるのである。

ナスは原産地がインドあたりであると言われるように、高温多湿を好む植物である。愛媛県ではナスの苗は4月の半ばから5月の連休すぎ頃までよく売られている。この苗を使って定植して栽培を試みると、私の畑ではこの時期かなりの低温ということになるのである。私の畑は標高350メートルくらいのところにあり、北向きの斜面で、日照時間が短い。午後の2時半ころには太陽が山の端に隠れてしまうのである。

次の写真は、5月3日に定植したナスの5月17日と6月1日の様子である。

  

    (ナス010) 5月17日                        (ナス011) 6月1日 

苗の時には紫の濃いしゃんとした苗だったものが、5月17日には葉の色が薄くなり、元気を失っている。そこで17日にビニールのマルチをしてやった。それから2週間後の6月1日の様子を見てみると、ナスはかなり回復して紫の濃い葉になっている。この間に自然な気温の上昇も当然のことながらあるのであるが、それを差し引いてもビニールマルチの効果は歴然としている。気温や地温が上がりにくい場所でのナス栽培には、それなりの環境の補正が必要なのである。このことは次の写真をみるともっとよく分かる。

 

   (ナス012) 7月12日                       (ナス013) 7月19日

このナスは、購入苗ではなく、自分で育苗した苗であるが、定植は7月12日である。7月に入っているから、気温も地温もかなり高くなっている。このような時期にナスを定植すると、マルチなしでも1週間後には、紫の濃い葉になり、しっかりとした生長を始めるのである。このように元気な生長を始めるとニジュウヤホシテントウの害はほとんど心配する必要がない。見つけたとき手でつぶす程度で十分である。このナスは8月23日にはこの写真のように実を着けている。

         (ナス014)  8月23日

ナスは、7月の暖かい時期に定植すればよく育つのであるが、そのかわり短い夏となって、多くの収量を実現することができない。だから、一般的には早い時期から植え付けて、保温措置を取りながら栽培しているわけである。ナスは暖地が適しており、高温多湿を好むのであるが、日本は四季があって冬から春の間は気温がかなり低い。

 ナスが生長するのにもっとも適した時期は7月頃と思われるが、この時期になって種まきをしたのでは収穫が殆ど期待できなくなってしまう。実際、5月の連休前後に販売されているナスの苗は、この時既に一番花の蕾がついているくらいだから、2月の上旬には種まきが行われているだろう。2月上旬は最も寒い時期で松山市あたりでは最低気温が0度以下になることもよくある。こうした時期に種まきをするわけであるから、露地にまくというわけにはいかない。温室の中で加温しながら発芽させ、育苗しているのであろう。気温は少なくとも25度くらいにはされているであろうと思う。私は農業のプロではないし、農業の科学的な知識を求めていないから、その辺の実情には全く疎い。

私が、温室でなく庭先で育苗箱に種をまいて苗をつくり、定植するまでを写真で紹介してみよう。ナス栽培と気温の関係が実感できると思う。そのために3月中旬播種の水ナスと6月初旬播種の千両2号の例を出しておきたい。

(ナス015) 411

(ナス016) 420

(ナス017) 67

(ナス018) 67

(ナス019) 76

(ナス020) 719

(ナス021) 89

 

この7枚の写真は、水ナスのものである。播種は3月12日。(ナス015)には二つの植木鉢が写っているが、手前はトマトであり、後ろの方でゴミ袋に半分包まれているのが双葉のナスである。(ナス016)は双葉のナスをポットに植え替えたところである。個々までに1ヶ月以上かかっている。定植は6月7日で、播種からほぼ3ヶ月が経っている。一番花が開こうとするのが7月6日で、収穫が可能になるのが8月9日頃である。種まきから収穫までにはほぼ5ヶ月がかかっている。

次の写真は千両2号ナスである。

(ナス022) 613

(ナス023) 72

(ナス024) 7月5

(ナス025) 7月24

(ナス026) 82

(ナス027) 817

(ナス028) 9月6

播種は6月13日。7月2日、播種後3週間弱で本葉が出てきている。3週間経った7月5日にポットへ植え替えている。(ナス025)は定植直前のポット育苗の状況。定植は7月26日である。(ナス026)は定植後1週間の状況。一番花が咲き始めるのは播種後2ヶ月あまり経った8月17日ごろ。一番果が収穫できるようになるのは播種後3ヶ月より一週間短い9月6日である。

梅雨に入ったばかりの6月始めに定植した水ナスは、ビニールのマルチをしているが、7月下旬の暑い時期に定植した千両2号はマルチをしなくても順調に生育する。

水ナスと千両2号という品種の違うものを、違う季節に栽培しているのだから、単純な比較ができないことは言うまでも無い。しかし、それにしても3月中旬に種を蒔いたナスは収穫までに5ヶ月を要し、6月の中旬に種を蒔いたナスは収穫までに3ヶ月かからないのである。それなら、6月中旬に種を蒔けば理想的であると言えるかというと、そうともいえない。何故か。気温の高い期間が短くなって、収量が少ないのである。ナスの原産地といわれているインドあたりでは、気温は年中高いから、日本のような寒い季節を持つ地域とはかなり違った栽培が可能であろうが、私は推測するだけで実態を知らない。