茅茫庵 「 自適農の世界 」
 
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福岡正信の自然農法と茅茫庵
  


キュウリ・きゅうり・胡瓜



 

                   

(キュウリ002 )  

(キュウリ003 )

これが、平成元年に私が始めて栽培したキュウリである。「栽培した」といってもミカン畑の跡地に、ただキュウリの種を軽く埋め、竹で支柱を作ってやっただけであるから、果たして「栽培」と言えるかどうかわからない。草を軽く引き抜いて、地面を確保し、土を掘り起こすこともせず、肥料もやらず、ただキュウリの種を三粒づつ蒔いて、軽く土をかけ、水をやらず、ずっと農薬を使うことも無かったが、右の写真のような綺麗なキュウリがたくさん収穫できた。このキュウリは白い粉を吹いているが農薬ではない。このような粉をつけるのは以前のキュウリではあたりまえだったのである。

 はじめて、キュウリを作ってみて、私はキュウリを栽培することがこれほど簡単だとは思わなかった。このキュウリの葉は団扇のように大きく、生き生きとしていて、暑い夏だというのに虫が全くついていない。実は真っ直ぐで、しっかりとした果肉で実に美味しい。それまでに見た、どこの畑のキュウリよりも立派にできていた。

 「肥料や農薬を使わない無農薬のキュウリは曲がっている」というのは何かの先入見である。本当の所は、キュウリは農薬を使わなくても、真っ直ぐで、綺麗で、美味しい実がいくらでも取れるのである。

 私は、このキュウリ栽培の「大成功」により、「無農薬、無肥料」の野菜栽培を目指し始めた。そして、翌年、平成2年も同じように、同じ畑で少し場所を変えて試みたが、今度は少し、様子が違った。「少し」なんてものではない。「全く」違っていた。

 次の写真のように、キュウリはツルを作ってはいるが、貧弱で実を着けず、曲がったキュウリが3本ほど取れただけだった。前年と同じようにしたのだが、結果は全く違ったものになった。なぜなのか。なぜ、こんなにも前年と違ってしまうのか。前年と同じ畑で、同じ時期に、同じやり方でやって、どうしてこんなに違った結果になるのか。

(キュウリ004)

 畑と作物の関係は実に不思議で、微妙なものだ。同じことをしても、同じ結果が出ない。どうすれば同じ結果が出せるのかが、これまた、皆目見当がつかない。簡単に見えたキュウリの栽培は、一筋縄ではいかない。そうした冷水を浴びせられた2年目であった。

 3年目から、この悲惨なキュウリから、抜け出すために何をはじめたかというと、世間の誰もがするように畑に石灰を撒き、キュウリの苗を定植し、肥料をやり始めた。肥料は市販の有機配合肥料を撒いた。少し、収穫ができるようにはなったが、満足できるほどにはならなかった。石灰や有機配合肥料を撒くことによって、作柄は少し良くなったが、曲がったキュウリなどが多く、満足できるものにはならなかった。苗は5月の連休に買い求めて定植したものである。定植した苗は、翌週になって見てみると黄色い感じになってあまり元気がなく、5月の終わりになってやっと生長をはじめるといった具合であった。

 4年目には、「肥料だけではだめなのか」と思い、牛糞や鶏糞を使うようになった。

このような具合で、何とか収穫できる程度にはなっていたが、満足のいかない状態が平成8年まで続いた。画期的な収穫の転機は9年目に起こった。刈り取った草をシートの上に積み上げ、半年あまり雨風にさらしておいた草堆肥を穴に埋め、そこにキュウリの苗を定植するようにしたのである。石灰と有機配合肥料も混ぜたが、牛糞、鶏糞は止めた。キュウリの生長は著しく良くなり、真っ直ぐなキュウリがたくさん取れるようになった。この年を経て、キュウリはまず失敗することは無くなった。しかし、綺麗なキュウリを収穫するには肥料や堆肥について工夫するだけでは全く不十分である。

 そもそも、キュウリはどんな作物なのであろうか。自然に発芽し、生長していくキュウリを観察してみることが、キュウリというものの理解には最も良いことである。ときに畑の中で前年のキュウリのこぼれ種が発芽し、自然に成長することがある。6月の半ば頃に自然に発芽したキュウリは梅雨時の豊富な水分と適度の気温、地温を得てどんどん生長していく。自然のままだから、キュウリはカボチャのように地を這いながら広がる。その土地がキュウリに適した土地であると、根に近い葉柄の付け根から何本もの脇芽を出し、それらを主要な蔓と同様に伸ばしていく。そして、それぞれの蔓に黄色い花をつけ、実を太らせていくのである。それらのキュウリの実は、収穫せずにどんどん生長させると大きいものは50センチくらいにもなり、直径が7,8センチにもなる。そのままにしておくと実は黄色くなり、果肉は腐ってゆき、後にはたくさんの種が残る。この種は動物などの餌となったり、翌年に又発芽して同じ経過をたどっていくわけである。

(キュウリ005)

 この写真に写っているキュウリが、その自然に生えてきたキュウリである。

キュウリの種類には「地這いキュウリ」という種類があって、普通、支柱を立てず、地面を這わせながら栽培する。しかし、「地這いキュウリ」に支柱を立ててやってもちゃんと出きるし、「地這いキュウリ」でなくても、地を這わせて栽培することはできる。

 では、なぜ、キュウリは支柱を立てて栽培することが一般化したのであろうか。御覧のように地這いキュウリは実が曲がることが多い。地面に接触したキュウリの実は実の頭や尻が固定されることが多く、実全体が伸びていくとき、どうしても曲がってしまうということが考えられる。また、光の当たる上の方は、緑が濃くて綺麗だが、地面に接触している方は、白くなっており、虫がかじっていたりして、実全体は美しさに欠けてくる訳である。商品として栽培する場合には曲がっていたり、白い部分があったり、虫食いの跡があったのでははなはだ具合が悪い訳である。このような欠陥をある程度というか、かなりの程度克服するのが支柱を立てるというやり方なのである。

 キュウリは蔓性の植物であるから、何か支えになるものがあれば、ひげを伸ばして巻きつけ自身を固定しながら上へ上へと蔓を伸ばしていく性質を持っている。だから支柱を立てたり、ネットを張ってやるとそれにひげを巻きつけながら生長していくわけである。また実はぶら下がって実の頭や尻を固定することが無いから、重力の助けもあってだらりと下へ伸び、真っ直ぐな実になりやすいというわけである。光は方向によっては強弱があるものの実の裏側が白くなるようなことは無い。虫にかじられることも少ない。また、蔓が地面を覆って広がっていくということも無いから、栽培面積が少なくて済むということもあるであろう。そういった利点があることによってキュウリは支柱を立てて栽培することが多くなっているといえるであろう。

 しかし、地を這わせることにも利点はある。支柱を立てる必要が無いということである。大いに手間が省ける。地面を葉が覆い尽くすので夏の暑い盛り、雨の少ない季節でも地面が乾燥しにくく、また、光を受ける面積が大きいのでキュウリ自身は大変元気であり、生き生きとしていて病虫害も少ない。味も劣ることは無い。だから、商品として栽培するのでなければ、地を這わせて栽培することも大いに利点があるわけである。

 支柱を立てた場合、蔓が支柱のてっぺんまで延びた後、行き場を失ってたくさんの蔓が込み始めると、丁度、この時期には気温の上昇もあって、あっという間に病気や虫が着き始めたりする。葉が込み合うと病虫害はあっという間に広がってくるのである。支柱を立てた場合は管理が一層重要になってくる訳である。この病虫害に農薬で対処するようになっては大変具合が悪くなってくるのである。支柱を立てた場合の葉の密生から生じる病虫害を減らすには可能な限り高い支柱を立てるということである。支柱を高くして蔓が上へ上へと伸びていけるようにしてやれば葉の密生が回避され病虫害は減るのである。また、古くなった葉を早めに切り落とすとか、込み合った枝蔓を剪定して減らし、風通しを良くすることによっても病虫害は減らすことが出来る。しかし、いずれにしても支柱を立てて栽培すると仕事が増えるという欠点があるわけである。この点、地這いキュウリはほったらかしに近い状態で栽培でき、いつのまにか採果の時期を迎えたキュウリを拾って回ればよいわけである。

 キュウリに限られるわけではないが、キュウリは定植して2週間程度様子を見ていると生長して実をたくさんつけることができるかどうかが、大体分かってくる。上手くいくときは葉が大きくなり、根元近くの葉柄の付け根から脇芽が成長しようとし始める。失敗するときは、大体葉が大きくならず、枝も出てこない。ひょろっとした蔓が一本延びていくだけである。こうしたときのキュウリは実の数が少なく、実がついても小さくて、曲がったものになることが多い。

 キュウリに限らず、松山市あたりでは苗ものは4月の半ばから5月の半ばにかけて多く販売されている。だから、この時期に定植することになる。松山市は平野であり、気温も温暖であるから、この時期に定植しても十分に育つ。しかし、私の畑は標高350メートルくらいの山のなかにあり、しかも北向きの斜面で、日光が直接地面に当たる時間は夏の最も多いときでも朝の7時から午後の2時半頃までである。畑の東側は山の稜線が比較的遠くにあって朝から陽が当たるが、畑の南西側はすぐに山の稜線がせり上がっていて、午後には早々と日が翳ってしまうのである。このような土地では、4月や5月初めの気温ではキュウリは順調には育ちにくい。しかし、6月中旬頃に種を直播きにしてやると、猛烈な勢いで葉を広げ、枝蔓を広げていく。次の写真がその例である。

(キュウリ006)

この、私のような畑では、早く栽培するには、ビニールマルチを使用して、地温を上げてやることが、大きな効果をあげる。しかし、ビニールマルチは費用もかかるし、始末するとき焼却したりするとガスが発生するという問題もある。藁や草を敷くという手もあるが、地温を上げるという目的ではビニールマルチには及ばない。作物を上手く栽培するには、気温や地温、日照なども重要な要素であって、これらの条件が自然に備わっていないときには、それなりの工夫をすれば作物は見違えるような生長を見せることもあるわけである。

 キュウリの苗を定植する場合、どの時期に種まきをし、どの時期に定植するのがよいかという問題も重要なことであるが、これに関して一つの実例を示してみたい。先ほど述べたように、松山市あたりでは苗ものは大体4月10日から5月15日くらいの間に多く売られている。多くの人が競って早く植えようと買い求める。どの苗もハウスの中で育苗されたものと思われる。早く植えて5月中旬にはもう収穫を始めている人もある。私は、松山平野で毎日のように色々な畑に植えられているキュウリの生育状況を見ることができるが、この時期に植えられたキュウリの葉は小さくて、支柱もせいぜい1.5メートルくらいの高さに作られていて、繁茂していない。この時期に定植されたものならば、6月に入ると収穫が十分可能になってくるが、出来はあまりよくない。

(キュウリ007)   

 (キュウリ008)

この時期では、キュウリがどんどん生長していくのに十分な気温になっていないのである。

 この2枚の写真をみていただきたい。    

 左の写真の中にキュウリが2列植えてある。右の列は3月12日に種まきをし、5月10日に定植したものである。左の列は4月21日に種まきをし、同じく5月10日に定植したものである。苗の違いは歴然としている。右の写真は6月7日の状況である。3月12日に種まきをした方は花をつけて実もつき始めているが、葉の大きさ、勢いは4月21日のものが勝っている。この後の状況はもう見えているわけである。次の週には左の列も花を咲かせている。

 どうしても、自家栽培したキュウリを早く食べたいという人は、早く植えるのがもちろん良いのであるが、綺麗なキュウリをどんどん収穫したいと思うならば、あまり急ぐ必要は無いのである。早く種まきをしてほぼ2ヶ月育苗した苗と、遅く種まきをして20日の育苗期間しかない苗とが、定植してみると遅蒔きの苗が勢いよく生長していくというのは、中々面白い話ではないだろうか。苗物屋さんで売られている苗に気を取られてしまうと、このようなキュウリの生育の実態に気づくことが出来ないのである。大体、6月いっぱいまでなら、種まきは遅くなるほどキュウリのその後の生長は順調であると思ってよいのである。

 順調に生長しているキュウリの蔓から、たくさんの実を収穫するにはどうすればよいだろうか。有効な一つの方法は実を早く収穫し、実を大きくしないということである。実が20センチ程度になったら、次々と収穫することである。実を大きくすると後の実のつき具合が悪くなってくるのである。最初についた実を黄色くなるまで取らないで置いたりすると最悪である。植物は種子を残すことが目的であるから、種子が残る状況になれば安心してしまい、後の頑張りを放棄するのである。反対に、種子が残らない状況で早いうちに採果すると次の実を育てようとするのである。しかし、美味しいキュウリが、早く収穫したキュウリであるかどうかというと、そうとも言えない。私は一週間経たないと畑に行けないから、収穫は一週間に一度、7日ごとということになる。7月の初旬までは、この一週間がちょうどよい日数であるが、梅雨が明け、気温が上昇すると7日間ごとに35センチ程度の大きなものを収穫することになる。中に種がたくさん出来て、種を取らないと食べられないものも出来る。このような少し熟しすぎたキュウリをたくさん食べることになるのだが、私の味覚ではこうして大きくなったキュウリのほうが美味しいように思われる。好みにより、どちらが美味しいとも言えまいが、多収に走ることが良いとばかりは言えないと思う。店で売られているキュウリはほとんどが20センチ程度でそろえられているが、種を取る必要がなく、皮も柔らかくて、全体的にみて綺麗で使いやすいということであろうが、順調に育ったキュウリなら、30センチを越えるようなものでも種を取らずに食べることが出来、皮も柔らかくて美味しいものはいくらでもできるのであるが、それでも長さが揃えられているのは流通の都合によるのであろう。

 5月に定植したキュウリは、辛抱強く付き合ってやれば、9月の半ば頃まで実をつける。8月の上・中旬頃は暑さで元気を無くしたり、葉が傷んだりして実もあまり良いものが取れなくなったりするが、下旬になって涼しくなってくると綺麗で立派な実をつける。さらに9月に入っても品質は悪くなってくるが収穫が続けられる。自家消費には全く問題がない。4月から9月まで半年にわたって奮闘したキュウリは、結果的には一粒の種も残すことなく生涯を終えることになってしまうのであるが、人にとってはこれがキュウリに求めるところなのである。

 キュウリにつく病虫害というのは、どういうものであろうか。私が経験したキュウリの病虫害というのは、うどんこ病である。8月の暑い日が続いたときに発生した。生き生きして、綺麗な実をたくさんつけていたキュウリの葉に白い粉のようなものが見られるようになった。とりわけ気にすることも無く、一週間放置して次の週に見たときには、たくさんの葉が枯れて黄色くなっていた。収穫は当然のこと減少した。つぎの写真が、生き生きとした葉の中にられ始めたうどんこ病である。              

(キュウリ009)             

(キュウリ010)

このうどんこ病は、気温が非常に高くなった時期に、葉が込み合ってくると発生し易いと言われている。この経験を経て、支柱を高くし、古くなった葉を切り取るようにしたことによって、その後は被害が無くなった。支柱は2.5メートルから3メートルくらいにするようにした。右の写真である。それで竹材と手間が余計に必要になった。幸い、竹は畑のすぐ近くで太い孟宗竹と、細い苦竹が生えているので、これを使用している。キュウリネットも何度か使用してみたが、高く張れないこと、費用がかかること、綺麗に張るのが難しいこと、きちんと始末しないといけないことなどの欠点があって、自然に生えてきて、やがて土に返り、畑の中で肥やしになっていく竹を利用することがベターであると思うようになった。しかし、竹が手に入りにくい状況下では、もちろんネットは手に入れやすいという利点があるし、費用がかかるといっても軽微なものであってなかなか優れものである。